第57章 好きな人を追い求める権利すら
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それから数日間、私は龍之介を気に掛けながら仕事をこなしていた。
結果から言ってしまうと、全ては取り越し苦労だった。私が不安視し過ぎていたのかも知れない。
むしろ今の彼は、絶好調だ。
「へぇ、特集で10ページね。それを龍が?」
「モデル、TRIGGERの中から誰か1人って条件だったんだろ?」
『はい。今回は龍で行かせて下さいと、随分前に先方へ返事をしてあります』
とある有名なデザイナーから、モデルのオファーがあった。そのデザイナーはTRIGGERの大ファンで、ちょくちょく こういった依頼を寄せてくれている。
「で?どうしてキミは龍を推したの?」
「俺も気になる。俺や天じゃ駄目だったのか?なんか悔しいな…」
『私、説明していませんでしたっけ?
今回の特集10ページの内、2ページがモノクロ描写なんですよ』
私は、依頼要綱の冊子を繰りながら告げる。しかし2人は、だから?と顔を傾けた。
そんな天と楽に、追って説明する。
『だから、貴方達2人じゃ 真っ白しろになるでしょう。モノクロ案件は、龍が適任です』
「「真っ白しろ…」」
「ふふ…っ、あ!ごめん…」
自らの姿を鏡に映して、髪や肌の色を確認する2人。そんな彼らを見て、ついつい声を出して笑ってしまった龍之介。すぐに申し訳なさそうな顔に変わる。
天と楽は、理由を聞いても釈然といていない様子だ。自分でもこなせたのに。服次第でどうにでもなる。などと零す2人に、私は告げる。
『…ちなみに依頼下さったデザイナーは “ 乙姫 ” さんです』
「龍。頑張って来てね」
「あぁ。この仕事は、お前にしかこなせない」
「うん、ありがとう!全力で撮影に挑むつもり!」
デザイナーの名を出した途端、面白いくらいに手の平を返した2人だった。