第57章 好きな人を追い求める権利すら
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帰りの新幹線。私達は、行きと同じ席順で座っていた。私の隣には天。向かいには楽と龍之介だ。
秋にしては暖かな日和。車窓からも、ポカポカとした日差しが差し込んでいた。そんな具合に、外には大変 平和な情景が広がっている。しかし、運ばれている私達も平和とは限らない。
「あんな深夜に抜け出して、長々と温泉なんかに入るから逆上せるんだろ」
『すみません』
「はっきり言えば?自分も誘って欲しかったって」
『え?そうだったんです?』
「…龍を誘って俺を誘わねぇとか、寂しいじゃねぇか」
素直で可愛い楽は、ふぃ と窓の外に目を向けて言った。しかし すぐにまた、こちらへ向き直る。
「まぁそれはいい。それよりも、俺が気になってんのは…龍だ!」
「……」くーー
楽は、自分の肩にもたれ掛かって爆睡する龍之介を指差した。
「めちゃくちゃ重い…!っていうか、こいつが移動中に熟睡するなんて すげー珍しいよ。どんなけ疲れてんだ…今日の撮影大丈夫か?」
「昨日、一睡も出来なかったんでしょ」
『重いと言いながらも、黙って肩を貸してあげる楽は優しいですね』
「そうか?べつに普通だろ。こんくらい」
「はいはい。優しい優しい」
「なんでお前は そういう棘のある言い方しか出来ねぇんだよ天!!」
「静かにしなよ。龍が起きる」
楽に寄り掛かって、気持ち良さそうに寝息を立てる龍之介。天の言う通り、昨夜は寝られなかったのかもしれない。
驚いた上に、色々と大変な約束をさせられ、思い詰めていたのだろうか。
しかしまぁ、今 眠れているならば、そこまで心配しなくても良いのかもしれない。彼の このあどけない寝顔が、私を少しだけ安心させてくれるのだった。