第57章 好きな人を追い求める権利すら
『龍、ごめん!背中借りる!』
「え?」
それだけ言うと、私はガッと椅子に足を掛ける。そのまま龍之介の背中に飛び乗った。
彼は訳も分からない様子だが、とにかく私の両足を抱えてくれる。
「………何してんだ?」
「プロデューサー、温泉で逆上せちゃったんだって。そこを龍が助けたらしい」
おんぶされる私を見る楽に、天がフォローを入れてくれる。まぁその説明は、あながち間違っていないのだが。
「〜〜〜っっ!!」
(む、胸がっ、背中に当たっ)
「おい、春人。大丈夫か?」
私に近寄る楽。しかし私は、龍之介の首筋に顔を埋める。勿論、顔を見られないようにする為だ。
『だ、大丈夫です…申し訳ないんですが、天と先に部屋へ帰って、冷たい飲み物を用意しててもらえますか?』
「〜〜〜っ!」
(そこで喋ったら、首筋にっ息が!)
「おう。分かった。分かった、けど…
なんで龍は、そんなに前屈みなんだ?」
「……察してあげてよ」
天は、ほら行くよ。と言って、楽の腰の帯を掴んで歩き出す。後ろ向きに引き摺られる型となった楽は、堪らず叫んだ。
「ちょ、分かったから引っ張るな!」
「なら さっさと自分で歩いて」
「ったく…何イライラしてんだよ」
「べつに!」
2人の声が完全に聞こえなくなってから、私は龍之介から飛び降りる。楽に顔も見られずに済んだし、身長が低いのもバレなかった。無事にピンチを脱した筈だ。
しかし その為に、1人の男が犠牲になってしまった。前屈みのまま、私に背を向ける龍之介。
どうしてそんな姿勢なの?なんて、天然発言はしない。
『……なんか、ごめん』
「っ、エリが、悪い事なんて 何もないんだ…!」大丈夫、今すぐ家族の顔を思い浮かべて、鎮めるから…