第57章 好きな人を追い求める権利すら
「恩なんて、感じる必要ないよ。だって、これは俺の意志なんだから。俺が勝手に、君を守りたいって思ってるだけ。
えっと…その、こういう事を言うと、エリを困らせてしまうかもしれないけど…」
私の手を下から掬い上げている彼の指先が、動揺からか 微かに揺れた。
「俺は…そういう、不器用で頑張り屋さんで。ただ直向きに 強い自分であろうとする、エリの事が…好」
龍之介が、決定的な言葉を口にしようとした瞬間。私達の会話をどこかで聞いていたのか?とも思えるようなタイミングで、天が駆け込んで来た。
龍之介は、慌てたように私の手を離した。それにしても、天の様子が明らかにおかしい。私は、肩で息をする彼に問い掛ける。
『天?どうし』
「楽が、来る…!」
「『!!』」
天は、手早く説明する。
寝ていた楽が目を覚まし、私と龍之介の不在に気付いた。そして、こんな時間に2人だけで どこへ行ったのか探し始めたらしいのだ。
天は、手分けして探すふりをして知らせに来てくれた。という訳らしい。
探す場所など、ある程度限られる。楽がここに来るのも時間の問題だ。おそらく、私が春人に化ける時間はない。
「どうする?」
「エリだけ、どこかに隠れる!?」
『いや、隠れてもし見つかったらヤバい!』
私はとりあえず、ウィッグだけは頭に被る。そして強引な手付きで、中に地毛を突っ込んだ。
すると、廊下から楽の声が聞こえる。青い暖簾の間から、彼の白い手が覗いた。
「おい、ここにいるのか?」