第57章 好きな人を追い求める権利すら
『…龍はさ、どうして怒らないの?どうしてそんなふうに、何でもない。みたいな笑顔でいられるの?』
「え?」
『だって私…貴方に酷い事ばかりしてる。
秘密をバラさないでって、龍を脅した。それに、2年間も ずっと騙してた…
正体を偽ったまま、貴方の隣で笑ってたんだよ』
「だからって、怒らないよ」
『龍は…優し過ぎる。優し過ぎるよ…』
「はは。エリは、俺に怒って欲しい?」
そう言われると、そうかもしれないと思った。
私は、彼に怒ってもらう事で、自分が楽になりたかったのかもしれない。
『…そうだって、言ったら?』
「…じゃあ1つだけ言わせてもらおうかな。
実はね、君が秘密を1番最初に打ち明けた相手が俺じゃなかったこと…悲しかったんだ。
な?全然、優しくなんてないだろ?だって俺は…嫉妬したんだから。大切な仲間である、天に…」
言って、溜息を1つ。そして眉尻を下げる龍之介。
『その状況を作ったのは、私でしょ。それに、そんなの全然怒ってない。龍は怒っても良いんだよ。
どうして天に話したのに、俺には秘密にしてたんだ!って』
「うーん…これ以上 情けなくて、女々しい俺を晒すのは気が引けるけど。君がそこまで言うなら、聞いちゃおうかな。
天に話して、俺には秘密にしてた理由って 何?」
相変わらず怒る事をしないで、遠慮がちに投げかけられた問い。私は、こちらに向けられた龍之介の顔を しっかり見て答える。
『天は、色んな事を割り切ってくれると思ったから。龍には、それが無理だと思ったから』
「!!
ははっ、そっか!相変わらずハッキリ言うよなぁ!あはは」
場違いなほど明るく、龍之介は私を笑い飛ばした。どうして笑われたのか分からなくて、私は若干の苛立ちを覚える。