第57章 好きな人を追い求める権利すら
「俺も結構、顔に出るタイプだからなぁ。はぁ…不安だよ」
さっきから思っていたが。龍之介が私を好きというのは確定でいいのだろうか?
そうでないと成り立たない会話が続いているのだが…。
しかし、ハッキリとした宣言はしない。私も、ハッキリと聞いたりはしない。
アンバランスな橋の上で、ギリギリの会話が成立している感じだ。
『それなら大丈夫。隠そうって気を持ってくれてるなら、私が色々とコツを教えてあげる。
手始めに…魔法の言葉を授けてしんぜよう』
「魔法の言葉?」
『もし龍が上手くやれなくて、MCとかインタビューアーに、好きな人はいますか?とか恋人はいますか?聞かれたとする。そういう時にも、焦らずこの言葉を言っておけば大丈夫!』
「凄い、そんな言葉があるの?万能だね!」
私は、龍之介の耳元で その魔法の言葉を囁いた。
すると彼は、なるほど!それなら俺にも出来そうだ!と、喜んでくれるのであった。
後は、実際に彼の現場での様子を見て 考えるとしよう。もし、あからさまに私を見る目が熱を帯びてしまうようなら、困りものだ。
その時は、マネージャー業を全て姉鷺に代わってもらう事も視野に入れなければ。
しかし 今の龍之介の表情を見ていると、私の不安は杞憂に終わるのでは?という気持ちが強くなる。
彼が、清々しい顔をしているから。
『なんか、スッキリした顔してる』
「そう?
あぁ、もしかしたら 自分の中で答えが出たからかな」
『答え?』
「うん。ずっと…どう呼べばいいのか分からなかった気持ちに、やっと名前が付いたんだ。
経緯はどうあれ、君の秘密を知れて良かった」
歯を見せて、龍之介は笑った。
そして、小さく続ける。
「…まぁ、楽と同じ人を好きになってたわけだから…そこは、複雑だけど…」
『え?』
「あっ、ごめんごめん!こっちの話…」
どうして彼は、こうも明るく振る舞えるのだろう。私には不思議に感じられた。