第57章 好きな人を追い求める権利すら
『3人の内 誰が欠けても、TRIGGERはTRIGGERでなくなってしまう。でも…
私は違う』
「っ、エリ!」
『もし龍が、楽に私の秘密を話すって言うのなら。
もしも龍が、恋をする自分をカメラの前に晒すって言うのなら。
私が、TRIGGERの前から消える』
つくづく、嫌になる。こんな卑怯な自分が。だって私が今している事は、脅迫に他ならない。
しかし、一種の賭けでもある。もしも彼が、私の存在よりも 自分の意志を貫き通す事を優先すれば…
私はTRIGGERの前から去らなければならない。
しかし、そうなったとしても TRIGGERは走り続ける。私が居なくなったところで、蜘蛛が足を一本失うだけ。3人という本体が存在している限り、蜘蛛は生き続けるのだ。
「分かった」
『それは…どういう意味の、分かった?』
「エリと一緒に、俺も墜ちる」
『!!』
「楽には、話さないって約束する」
彼は、へたり込んだ私を見て告げた。
龍之介は、もっと悩むと思った。自分を曲げる事と、私を失う事を、天秤に乗せて。
しかし彼は、驚くべき早さで私に結論を叩きつけたのだ。
「俺は、エリの中に…確かな覚悟を見た。
君は以前言ったよね。TRIGGERと一緒にいたいと、いくらでも頑張るから 見捨てないでって。涙を流して。
そんなふうにTRIGGERを愛している君が…
自分から、TRIGGERを捨ててみせるとまで言ったんだ。そう告げるのに、一体どれくらいの覚悟を必要とするのか、俺にも分かるよ」
龍之介は、だらしなく垂れ下がっていた私の手を取った。
自分の両手で 私の手を包み込んで、きゅっと力を込める。
「俺も 付き合う。それが君の選んだ道ならば」