第57章 好きな人を追い求める権利すら
『そんな離れてないで、ほらこっち来て。まだ話さなきゃいけない事があるんだから』
「そ、そうだよな…。ごめん」
『大丈夫?眠くない?』
「うん。不思議な事に、全く眠くないんだ」
時刻はなんと午前3時。明日の起床余計時間は7時。今から寝たとしても4時間しか寝られないのだ。
私は龍之介に、続きはまた明日にしようかと聞いた。しかし彼は、私さえ良ければ このまま続けたいと言ったのだ。どうせ部屋に帰っても 寝られないと思う、と。
「…エリはさ、楽には 言わないの?」
『龍は、やっぱりそこが1番気になるんだね』
「俺は、知ってるから。
楽が…どれだけ君に、会いたがっているか」
『私も知ってるつもりだけど。話さない』
「でも!楽はもう4年もエリを想って」
『龍!』
私は、彼の名を叫んで言葉を遮る。
ガッと逞しい肩を掴んで、揺れる瞳を覗き込む。そして続ける。
『分かってくれとは言わない。でも私には私の考えがあって、話さないって決めたの。
自分が最低だって、分かってる。本当に…堕ちるところまで堕ちてるよね。楽の気持ちを知っていて、正体を隠して側にいるんだから。
しかも龍にまで、片棒を担がせる事になってしまった。大切な仲間に、嘘を吐き通せって言ってるんだから』
龍之介の性格を考えれば、これは相当苦しいに違いない。
本当ならば、すぐにでも楽の元に走っていて、寝ている彼を叩き起こして、教えてあげたいだろう。
Lioを見つけたよ。良かったね。やっと会えるね。
そう笑って告げる、龍之介の笑顔が簡単に眼に浮かぶ。
そんな優しい彼を 私は…
見えない鎖で、強引に縛り付けようとしている。
『 TRIGGERには、楽が必要。
でも、1人の女を追いかけるアイドルは、TRIGGERには いらないの。
お願い、龍。
…TRIGGERの為に、私と一緒に 堕ちて』