第57章 好きな人を追い求める権利すら
龍之介の大きな手の平が、私の頭に乗せられたのだ。
「辛かったね」
『……』
「悲しい過去を乗り越えてくれて、ありがとう。音楽の側にいる事を選んでくれて、ありがとう。俺達の前に現れてくれて、ありがとう。
TRIGGERを愛してくれて、ありがとう」
『…龍』
「エリが俺達と出会ってくれたこと、本当に嬉しいよ」
色々な感情が、ぶわっと胸の内に込み上げる。感極まる私を落ち着かせるように、龍之介は髪をゆっくりと撫ぜてくれる。あまりに優しい手付きに、うっとりと瞳を閉じる。
そんな彼の手に、私は自分の手を そっと重ねる。
「!!」
『さっきも言ったけど…ありがとうって、言わなきゃいけないのは私の方。
今の貴方達は、私の…生きる理由だから。だから…ありがとう。
なんて言ったら、重いかな』
龍之介は、ゆるゆると首を振った。
『あとさ…これは、気付いてた?
私、私ね…めちゃくちゃ、涙脆いの…っ』
「!!
あはは、うん。知ってたよ。
今も、泣くのを必死で我慢してるって 知ってる」
眉間に皺を寄せ、目頭に力を入れる。涙腺の栓を、自力で閉めるのだ。勿論、そんな機能は人間の体に備わっていない。しかし、それくらいの気概を見せてでも我慢しなくては。
『我慢…するっ。だって、泣いたら…また、龍を困らせてしまうから…!』
「泣かれて困った事なんてないよ。まぁ、俺に出来ることって言ったら、胸を貸してあげるくらいなんだけどね」
龍之介は、そっと距離を詰める。そして、私の背中に両腕を回そうとした その時。
「あっ…!ご、ごめん。俺なんかに、急に触られたら…嫌だよな!
その…エリは、女の子なんだし。ごめん、軽々しく頭を撫でたりして」
『…ふ、あははっ』
「え…?え?」
ワタワタと、急に私から離れる龍之介。
きっとこれが他の男の人だったら、抱き締めてキスの1つでもくれるシーンなのだろう。
でも、そうはしないで 私から距離を取る彼が。なんだか凄く龍之介らしくて、純朴なのが可愛らしくて。
ついつい私は、笑ってしまうのだった。