第57章 好きな人を追い求める権利すら
『喉が、駄目になったから。それだけ』
「……」
『そんな顔しないで、もう吹っ切れてる。
アイドルには もうなれないんだって分かった時は、あぁ人生終わったなぁって思ったけど。
でも、少ししたら落ち着いて。色々考えたんだよ。歌手が無理なら、ピアニストか、プロダンサーを目指してみようかって。
でも、やっぱり無理だった。だって私は、歌う事が1番好きだったから』
しかし。どう頑張ったって、音楽から離れる事は出来なかった。プロデューサーになったのは、その成れの果てだ。
仕方なくだ。そう思っていた。でも、それは違うんだとすぐに気付いた。
『自分が歌えないなら…歌える誰かの、力になりたい。
そう考えるように、なったんだ』
「…だからか。うん、納得した」
『納得?』
「ずっと不思議に思ってたんだ」
龍之介は、困ったような笑みをこぼして。少し言いにくそうに口を開いた。
「ステージに立つ俺達を見る、エリの目がね…普通のスタッフさんとは、全然違うんだ。頑張れ!とか もっと行ける!とか、そういう応援も感じるんだけど。
やっぱり君から1番伝わってくる気持ちって “ 羨ましい ” なんだよね」
『…ふふ、待って。やだな、それ…
めちゃくちゃに、恥ずかしい』
私は、自らの顔の前に腕を持ってくる。こんな事で赤い顔を隠せるとは思えないが、何かせずにはいられない。
そうか。私は今まで、そんな目をTRIGGERに向けていたのか。
自分のプロデュースするアイドルを、いいなぁ と見上げるプロデューサーか…。
有りか無しかで言えば、無し寄りの無しだな。
「多分、楽と天も気付いてるんじゃないかな」
『あぁ、そう…はぁ』
溜息を吐いた私の頭を、ふわり温かい物が包んだ。