第57章 好きな人を追い求める権利すら
『でね、龍。私、あと1つ、話さなければいけない事がある』
「うん、何かな」
また私の言葉をもって、彼を驚かせなければいけない。少し気は重いが、打ち明けないという選択肢は無い。
天と龍之介。この2人には、格差を付ける気は無いからだ。平等に、同じだけの秘密を共有したい。
『私、元アイドルの…Lioなの』
「……え」
私達の間に流れる時間が、凍った様に静止する。
龍之介は、大きく双眸をみはった。酷く驚いているのは、慮るまでもない。
少し後、微かに震えさえしている唇を 薄く開いた。
どんな言葉を最初に口にするのか、いくつかの予想を立てる。しかし実際に彼が零した言葉は、私の予想していなかったものだった。
「…そうか。君が…
楽の、好きな人」
龍之介が まず持って来た言葉は、大切な友人を思うが故に出たものだった。
よくよく考えると、それはとても 彼らしい。優しい彼だからこそ出た言葉に相違ない。
でも、どうして貴方は…そんなにも泣きそうな表情をしているのだろう。
『…龍?』
「あ、ごめん。少し、驚いて。はは…
でも、これで謎が解けたよ。どうしてプロデューサーである君が、歌唱もダンスも達者なんだろうって 思ってたから」
悲しみを自分の中に閉じ込め、無理に笑顔を作っているように見えた。しかし。それに気付いたところで、私にはどうする事も出来ない。
私が足元に視線を落とすと、龍之介は問う。
「聞いても良い?」
『うん。何でも答える』
「どうして、アイドルを辞めたの?」