第8章 なんだか卑猥で良いね
そして今は、たこ焼きの屋台に並んでいる。
「……座って食べたい」
『それは無理な相談です』
天と私は、先程買ったフランクフルトを齧りながらたこ焼きの屋台に並んでいるのだ。
「物を食べながら食べ物を買う為に並ぶなんて…、ふふ、こんな馬鹿な事を自分がしてると思うと、笑えてくる」
『効率良く時間を使う為です。時は待ってくれないんですよ』
天は、心底可笑しそうに笑っていた。良かった…半ば強引に連れ出してしまったので。少しでも笑顔が見られればちょっと安心する。
そうこうしている間に、列はだんだん空いてくる。
『九条さん、早く食べないともう順番が回ってきますよ』
「急かさないで。よく噛んで食べないと健康に悪い」
仕方ないので、既にフランクフルトを食べ終わった私が 彼の分も購入して持ってあげる。
そして、熱々のたこ焼きを頬張りながら 次のターゲットを探す。
「キミはなんなの?食べ歩きのプロか何か?」
次は甘い物を挟みたくなったので、チョコバナナの列に並ぶ。
『はい。あーん』
「………嘘でしょ」
『何も嘘などありません。たこ焼きを熱々の状態で食べないなんて、関西人に怒られますよ』
まだフランクフルトを食べ終わっていない天に、私はたこ焼きを突き刺した楊枝を差し出す。
「いや それにしても、あーんって。何が悲しくて 男が男に…。悪目立ちも良いところだ」
溜息を吐く天。やはり目立つのが嫌なのだろうか。そんな彼を安心させる為に言う。
『大丈夫ですよ。今の貴方は完全防備。誰もTRIGGERの九条天だと気付いて無いので、目立ってないですよ。
完璧な変装です』
「ボクはね!」
『??』
私は、自分へ向けられる 周りのヒソヒソ声に全く気が付いていなかった。
「ひそ、金髪のイケメンがっ、ひそ」ひそ
「違うイケメンに、ひそ、あーんって」ひそ
「…はぁ。キミはもう少し、客観的に自分を見られるようになるべきだね」
天は、自分が被っていた帽子を私に強引に被せると。やっと差し出された たこ焼きにパクついた。
その時。周りの女性陣から、一際大きな短い悲鳴が上がるのだった。