第56章 見てない!見てない見てないよ!
「ボクが教えてあげようか」
『え』
「ほら、まず ここ」
天は、とん。と指先を背中に当てた。それは、うなじと背中の中間辺り。敏感な部分を唐突に刺激されて、図らずしも声が出る。
『っ!?』
「あ、あれ?ねぇ、どうなってる?もう目を開けていい?」
「まだ駄目」
「そうか…了解!」
天の指は、つぅと下る。同時に、耳元で囁く。
「あと…ここ」
『ちょ、もう、分かったから』
「ここにも」
『て、んっ』
「…ん?どうして天が、まだ駄目だって分かるんだ?」
かなり遅れて、龍之介はようやく異変を察知して視界を開いた。すぐに天は、ぱっと私の背中を弄んでいた手をどける。
私の背中を見た龍之介の顔色が、まるでリンゴのように変わる。いくつも いくつも、点々と散らばった赤い跡。キスマークを凝視した。
これ以上、裸よりも恥ずかしい姿を2人に晒していられない。私は2人に背を向けて立ち上がると、バサっと浴衣を羽織った。
「そうか…彼氏、が…いるんだね」
「それ、付けたのって千さんでしょ」
『え…。何で分かるの!』
「えぇ!?春人くんの彼氏が千さん!?」
かなり色々と誤解している龍之介。彼への説明は後でするとして、今は天の言葉を待つ。
「ロビーにあった千さんのサイン、日付が気になってたんだ。ちょうど、キミが仕事を休んだ日だったから。
それに…ここの逆さ紅葉を見た事があるってキミ言ってたし。この旅館に、千さんと2人で来たんでしょ」
『…お、お見事…』
もはや、流石としか言えない探偵並みの推理力。しかし本人は、苦虫を噛み潰したような表情だった。