第56章 見てない!見てない見てないよ!
『龍』
「は、はい!」
『助けてくれて、ありがとう』
「……いや。気が付いてくれて、良かったよ。このまま目を覚まさなかったら、どうしようかと思った」
龍之介の方を見てお礼を伝える。すると彼は、ようやく いつもの笑顔を見せてくれた。
ずっと、ドギマギしていたから。まぁ私がそうさせてしまったのだが。私の性別に、まるで気付いていなかった龍之介。裸を見て、それは びっくりしたことだろう。
『じゃあ、そろそろ服を着るので…』
「あっ!そ、そうだよな!はは…
じゃあ俺と天は、むこう向いてるから!」
2人は、くるりと体の向きを変えた。それを確認してから、私は身体をゆっくりと起こす。
その時、2人は同時に声を上げる。
「あ」
「待っ」
何故か、またこちらへ向き直った2人。私は、まだ気付いていない。彼らが向いた方向には姿見があり、私の姿がバッチリ写っていたことを。
『え。なに。エッチ』
「ち、ちがっ!」
「全部、鏡に…写って…」
私は胸元に浴衣を当て、2人に背中を向ける。龍之介は、両目を自分の手で覆った。
天は、不自然に言葉を切れ切れにする。そして、私の背中を凝視していた。
「キミ…その、背中」
『背中?何か付いてる?』
「……付いてるよ。真っ赤な跡が…執拗に。いくつも、ね」
『…は?』
「え?何?もう服着た?」
律儀にセルフ目隠しをしている龍之介は、何が起こっているのか分かっていない。
そして、私もよく分かっていない。だって、知らなかったから。
千が、私の背中に置いていった、愛の証の存在を。
天だけが全てを理解して、舌を鳴らした。
『え?赤い、跡……。っあ!!』
「やっと分かったの?相変わらず鈍いね」
『ちょ、嘘っ!どこっ』
遅れて全てを理解した私は、思わず背中に手を伸ばす。すると天は、そんな私の背後に歩み寄った。