第56章 見てない!見てない見てないよ!
「…見たの?」
「え…っ?」
「彼女の裸、見たの?」
「っっ、みっ、見てない!見てない見てないよ!」
俺は、2秒でバレる嘘をついた。天は、何かを諦めたように溜息をつく。そして丸椅子を持って来て、彼女の前で腰を下ろした。
「ちょ、え!?天は、どうしてそんなに落ち着いてるんだ!?春人くんは…あ、いや。春人、ちゃん?あれ、なんて呼べばいいんだ?」
「春人くんでも春人ちゃんでもないよ」
「と、とにかく!!その…あれだ!
つ、付いてなくて…、付いてるんだ!俺達に付いてるモノは付いてないけど、その代わりに上に付い」
「分かってる。ちょっと落ち着いて」っていうか、やっぱりキミしっかり見てるよね
俺は、やっと気が付いた。どうして天が、ここまで落ち着き払っていられるのか。
そう。彼は、知っていたのだ。中崎春人が、女であると。
それに気付いた時、さっきとは比べ物にならないくらいの痛みが、この胸を襲った。
天が知っていて、俺が知らなかったという事実が悲しい。
彼女が秘密を打ち明けた相手が、俺でなかった事が悔しい。
彼女の1番は 俺でないという現実が、酷く 切ない。
あぁ、うん。分かっている。
こんな気持ちになる理由なんて、一個しかない。
「……そうだ、俺は」
「龍?」
彼女の事が、好きなんだ。
←