第8章 なんだか卑猥で良いね
私は、この九条天という男が 遊んでいるところを見た事がない。常に仕事か、トレーニングか。それは休みの日もしかりだ。
彼はまだ17歳。そんな青年が他にいるだろうか。
天は、窓の外を見つめる。
ここからは、楽しそうな学生達や来客の人々が一望できた。
色取り取りの装飾がされた、飲食の屋台。子供達が楽しそうに遊ぶ、輪投げやヨーヨー釣りの出店。
そして、それらを接客する学生達の楽しそうな笑い声が響く。
そうだ。天は17歳。本来ならば、今ああして青春している年の頃。しかし彼は、アイドルの道を既に歩み出している。
もうあのように、普通の学生の中に混ざり 青春する事は叶わないだろう。そんな道を 彼自身が選んだ。
一刻も早くアイドル活動に専念する為、海外の大学を飛び級で卒業した天。こんなふうに、人並みな青春を謳歌したのであろうか。
「………」
それは、私には分からない。きっと聞いたところで、そんな事はどうでも良い。とかなんとか言ってはぐらかされるのだろう。
しかし、今 窓の外を見つめる彼の瞳。背中は、なんだか少し寂しそうで…。
気が付いたら私は、天にある物を差し出していた。
「…なに。これ」
『帽子と、メガネと、マスクです』
そういう事を聞いているんじゃない。と言わんばかりの瞳で天は追加で質問する。
「それくらい分かってる。どうしてこれをボクに渡すのかを教えて欲しいんだけど」
『あぁ、それは…これをこうして…』
私はキャップをカポっと天の頭に乗せ。
『これは、こう』
メガネを強引に装着。
『それで、これをこうです』
マスクを耳の後ろに引っ掛けたら出来上がり。
「は?」
『行きましょう』
私は無理やり天の手を引いて、廊下へと飛び出した。
「あはは。いってらっしゃい」
「若いっていいよなぁ」