第55章 “ お約束 ” の においがプンプンしますな！

私もスタッフの列に続こうとしたのだが、天に呼び止められる。


「キミもここで食べればいいでしょ」

『え…あぁでも』

「うん！お弁当、ここに持っておいでよ」

「龍、それ良い考えだな。春人が弁当食ってる前で、この豪華な料理を俺が美味そうに食ってやるよ」

「楽…。言っとくけど、俺はそんなつもりで彼を誘ってるんじゃないからな」

「楽は性格が悪い」

「なっ…なんだよ。ただの冗談だろ」


この会話を聞いていたスタッフの1人が、私の弁当を持って来てくれる。そしてそれを、こちらへ手渡してから言った。
本当にTRIGGERと中崎さんは仲が良いですね！と。


「和食っていいよね」

『龍は和食が好きですか』

「好きだよ！特に魚料理とか」


私は 自分の弁当の中身から刺身をつまむと、龍之介の皿へと乗せた。それを見た彼は、嬉しそうに目を細くした。


「ありがとう。じゃあ俺は、鱧をあげる」

『え、いいんですか？そんな貴重な物を』

「ははっ、大袈裟だな！
芥子酢味噌と梅肉、どっちが好み？」

『………芥子酢味噌で』

「うん、分かった！」


私が迷った末に答えると龍之介は、湯引きされた鱧に芥子酢味噌をちょんちょんと付ける。
そして言う。


「はい、春人くん。あーん」

『え…あ、はい』あー


丁寧に骨切りされた鱧が、口の中でほろほろとほぐれる。芥子の効いた酢味噌との相性は、言うまでもなく最高だ。


「じゃボクは梅肉の方をあげる。さっき迷ってたから、どっちも好きなんでしょ」

『さすが天…！優れた洞察力です』

「口、開けて」

『……』あー


梅肉も梅肉で、さっぱりとした口当たりで美味である。

こんなやり取りを隣で見ていた楽が、冷えた口調で言う。


「…お前ら、それは楽しい のか？」

「「『凄く楽しい』」」


彼は、まるで仲間外れにされた子供のような顔で “ そうか。良かったな ” と呟いた。