第55章 “ お約束 ” の においがプンプンしますな!
「何だ今の!さすがに凄いな…!」
「びっくりした…、怪我はない?」
私と天が話していた場所まで、楽と龍之介は上がってきた。すると天が再び歩き出したので、私もその後を追った。
4人で階段を降りていると、龍之介が言う。
「でも本当に凄かったなぁ。春人くん、スタントマンみたいだったよ!」
『…温泉に落ちた時みたいに、ダサい姿を見せたくなくて必死だったんですよ』
「ダサいなんて、全然そんな事ない!春人くんは凄く格好良いよ!」
格好良いよ…格好良いよ…。
龍之介の言葉が、私の中でエコーがかかったように広がった。
私は 勢い良く振り向いて、龍之介の肩に両手を乗せた。
『…龍!』
「わ、な…なに?」
『もう1回』キラキラ
「え…?えっと、春人くんは、格好良いよ?」
失いかけていた自信が戻って来る心地だった。
『…ふふ。そう!私は、格好良いんです!!』
「あはは」何だか分からないけど凄く喜んでる
こんな格好良い私が、まさか自分の担当アイドルと恋に落ちる?
そんな馬鹿な話、あるはずないではないか!!
「…馬鹿みたい」
「なんだよ春人。お前、カッコ良くなりてぇのか」
『当たり前でしょう』
「なら…」
楽は、手の甲を私の胸に数回当てた。トントン、と。まるで扉でもノックするように。
「もっと筋肉付けろよ。全体的に なんか薄くねぇか?風呂場で持ち上げた時も思ったけどな。軽すぎるぜ、あんた」
「楽!!」
「うわ!な、なんだよ天…急にデケー声出すなよ」
「あれ?春人くんが固まっちゃってる。さっきまであんなに楽しそうにしてたのに…」
戻りかけていた自信は、その辺りへ散り散りに消えていった。