第55章 “ お約束 ” の においがプンプンしますな!
1番近くにいた天が、腕を広げるのが見える。受け止めようとしているに違いない。が、もし受け止め切れなかったら?私ごと、階段の下に落ちるのか?
……ありえないだろう。
『っ、ふ!』
私は首を体の内側に向けて曲げ、両腕を大きく振る。それから膝を胸に当てるように抱え込んだ。すると、体は空中で前向きに一回転する。
ズダン!という音がした時には、足の裏が地面にくっついていた。
ポカンと口を開けて、私を見下げる楽と龍之介。私はそんな2人の隣をすり抜けて、階段を駆け上がる。
そして、腕を広げたまま固まる天の元へ向かった。
『天、天!!何かがおかしいっ!』
「おかしいのはキミだ!」
『そう…!どう考えてもおかしいんです 今日の私は!なぜこうも、漫画やアニメのお約束展開が押し寄せるのでしょう!』
「キミに教えてあげるよ。漫画やアニメのヒロインは普通、階段から落ちそうになったからって、10点満点の飛び込み前方宙返りを決めたりしない。
今の場合のお約束は、前にいたボクに受け止められる展開だ」
『……そうですか、それを聞いて安心しました』
「安心して欲しかった訳じゃないよ。どうしてくれるの、このボクの両腕は。
こんなにもキミの運動神経の良さを腹立たしく思った事はない」
彼は言ってから、ようやく広げていた腕を 体の横に揃えた。
それにしても…。
温泉に落ちて、お姫様抱っこからの鼻血。浴衣の裾を踏んづけて、階段から落下。
ここまでお約束展開が続くと、なんだか不安になってしまう。まだこの先に、さらなる “ お約束 ” が待ち構えているのではないか、と。