第55章 “ お約束 ” の においがプンプンしますな!
広々と開けた敷地。亀湯や寝湯、色々とあるが。やはり1番の目玉は露天風呂だろう。
数十人は入れてしまいそうな、檜で造られた立派な浴槽。その真ん中に、ドカンと大きな飾り石が置かれている。
仮に他の客と、入浴のタイミングが被ってしまったとしても、この石のおかげで顔を合わせずに風呂を楽しむ事が出来るだろう。
まぁ今日は貸し切りなので、その心配は必要ないのだが。
『お湯の温度は、いつもよりも低めに設定してもらってます。だから、そこそこの時間入っていても逆上せる事はないと思いますが。
それでも定期的にカメラを止めます。都度、私がタオルを持って来るので、それで顔の汗を拭いて下さい』
温泉地でのロケが大変だというのは、業界では有名な話だ。
タレントを綺麗に撮る為に、定期的に汗を拭かなければいけない。いくらお湯の温度を下げてもらっていると言っても、長時間は湯に浸かっていられない。
スピード勝負になるだろう。私も、いつも以上に動かねば。
「っつーか、お前…どこ見て喋ってるんだ」
『え』
楽は、自分の後ろを確認しながら言った。私が、彼の後方に視線を向けていたからだろう。だがべつに、彼の後ろに何かがある訳ではない。
ただ…
タオル一丁の眩しいアイドル3人組を、私が直視出来ないだけだ!こんなに目のやり場に困る光景があるか!テレビで観るならまだいい。だが、ここにいるのは生の美し過ぎる男達だ。
いや、落ち着け…。こんな馬鹿みたいな理由で撮影時間が押してしまうなど、私のプライドが許さない。
大丈夫だ。こう…目を細ーくして、視界を狭く狭くすれば、ほとんど見えないから大丈夫!
「春人くん?どうしたの?眠い?」
「変な奴…」
「……」
(気の毒に)