第55章 “ お約束 ” の においがプンプンしますな!
あと聞いていないのは龍之介のみだ。私は彼に、龍は?と答えを促してみる。
「うーん…俺は…ありがとう。かな。
やっぱり、好きだって言ってもらったら絶対に、嬉しいと思うから」
『採用』
龍之介の解にしっくりきた私は、すぐさま携帯を取り出す。
その様子を見た楽は、興奮した様子で こちらを指差して まくし立てる。
「お前!やっぱり自分の話だったんじゃねぇか!目の前で返信しようとすんな!」
「ふん…何をいまさら。分かりきってたでしょ」
「えぇ!?そ、そうだったのか!」
《 ありがとう 》
その5文字が、好きだ。の下に表示された。
彼が、この回答に満足してくれるかは分からない。しかしきっと…次に顔を合わせた時は、いつもの涼しげな笑顔を見せてくれることだろう。
私の大好きな、あの眩しい銀髪を揺らして。
車内の電光掲示板に、京都 という文字が表示される。もうすぐ目的地に到着するのだ。
扉が開くと、既にカメラを構えたスタッフが待ち構えていた。メンバーが京都に降り立つシーンをおさえる為、1本早い新幹線で現地入りしていたのだ。
勿論、人払いも済ませている。
カメラを意識して、3人は降車。次は、旅館の前でのオープニングシーンまでカメラは止められる。
「綺麗な旅館だね。中もきっと素敵なんだろうな」
「景色も温泉も、楽しみだな」
「仕事だってこと、忘れてないよね」
「当たり前だろ」
旅館を見上げ、3人は正面玄関へと足を踏み入れる。撮影をする前に、旅館の人達に挨拶をする為だ。
こちらに気付いた女将が、即座に歩み寄ってきた。
「ようこそ、いっしゃいました。本日は、よろしくお願い致します」
『こちらこそ、お世話になります。撮影許可を下さり、誠にありがとうございました』
さすがだと思った。
私の事を確実に覚えているはずなのに、先日は…とか、またのご来店ありがとうございます…などの言葉を口にしない女将は、やはりプロだ。