第55章 “ お約束 ” の においがプンプンしますな!
【side 折笠千斗】
電話から君の声が聞こえなくなった途端。その機械が酷く冷たく感じられた。
手に伝わってくるのは、金属の冷えた感触。まるで正反対だ。彼女がくれる、温もりとは。
手の平をじっと見つめる。数日前には、確かに僕の手の中にあったのに。もうきっと、あの温もりを手中にする日は 永遠に来ない。
こんな名残惜しさに苦しむ事になるならば。
もっともっと、彼女に深く深く僕を刻み付けておくんだった。
あんなのじゃ…全然、足りなかった。
小さく俯くと、視界に見慣れた髪が映った。
この髪を見ると、エリを思い出すようになったのは いつからだろう。
君は自分では言わなかったけれど。初めて夜を共にした日から、僕の髪をよく眺めるようになっていた。すぐに分かったよ。あぁこの子は、僕の長い髪が好きなんだなって。
「…はぁ。髪、切ろうかな」
「えぇ!?ユキ、髪の毛切っちゃうの!?」
ごくごく小さい独り言に反応して、すぐに相方が飛んで来た。
彼は、エリとは違う温もりを与えてくれる。
「やっぱりまずいかな。おかりん、怒ると思う?トレードマークを勝手に切っちゃったら」
「うーーん、どうだろ。事前に言えば大丈夫でしょ!ユキは、どんな髪型でも絶対似合うからさ!五分刈りでもパンチパーマでも!」
「それは買い被りすぎだよ、モモ。その2つが似合うような顔面は、さすがに持ってない」
「いーや!ユキのイケメンっぷりなら絶対に大丈夫!でも、なんで急に髪切ろうなんて思ったの?
まさか……失恋とか!?」
まさか、こんなにも的確に斬り込まれるとは思っていなかった。勿論、彼に悪気がない事など分かっている。
が、つい顔は勝手に下を向いた。
「え…、えぇーー!?」