第53章 隣にいるのは君が良いな
「でも、本当に良かった。実は、迷惑じゃないかなって気にしてたんだ」
『…あんな強引に拉致しておいて?』
「はは。まぁ、そう言ってくれるなよ」
『そもそも、なぜ急に京都なんです?』
「べつに、ただの思い付きさ。そういえば もう何年も、ゆっくり紅葉を見てないな。って思ったんだ」
車窓から、外の景色を見ていた千だったが。新幹線はトンネルに入ってしまったようだ。
ゴーーと音を立て、窓の外は黒一色に変わってしまった。
すると千は、ゆっくりと こちらを振り返った。
「それで…もし綺麗な紅葉を見れるなら、隣にいるのは君が良いなって。そう思ったから」
『私なんかで、良かったんですか?』
「君が、いいんだよ」
それだけ言うと 千は、ぽすっと私の肩に頭を預けた。私の肩の位置が低いので、明らかに辛そうな姿勢だが。彼は幸せそうに瞼を伏せた。
「…乗り物って…眠くなるよね」
『いいですよ。着いたら起こします。ゆっくり休んで下さい』
「ん…ありがとう。エリ ちゃん」
完全に瞳を閉じると、彼は私の手を握った。そしてそのまま、自分の膝の上に持って行った。
鞄からストールを取り出して、千の膝の上に ふわりと掛ける。これで周りからは、私達が手を繋いでいる事は分からないだろう。
すぅすぅと、小さく胸を上下させる千。
その眠り顔からは、疲労の色が見て取れた。
やはり相当 疲れているのだろう。当たり前だ。多忙な彼にとって、今日は久し振りのオフなはず。
自宅で、ゆっくり体を休めれば良いのに。何故、あえて遊びに出ようなどと思うのか。
それも あんな早朝から、私を待ち構えているなんて。日帰り旅行の相手なんて、いくらだっているだろうに。
どうして、わざわざ私なんかを隣に置きたがるのか。
『ほんと…何考えてるのか、読めない人…』