第53章 隣にいるのは君が良いな
『1番早い京都行き、グリーン車の指定席2枚お願いします』
チケットを2枚手にして、千の元に戻る。待合の椅子に腰掛けた彼の側には、数人の女の子の姿が。
携帯のカメラを向け、千を撮っても良いものかとソワソワしている。
ものの5分目を離しただけで、こうも人に囲まれてしまうなんて。まったく驚きである。
私は、大股歩きで彼を迎えに行く。
「あぁ おかえり。ごめんね君にチケット買わせちゃって。僕はどうにも その手のこと苦手でさ」
『それに関しては問題ないですから、こっち来て下さい』
私は千の腕を取り、立ち上がらせる。そして、そのまま男子トイレへと連れて行く。
「驚いた…」
『まぁ、貴方は目立ちますからね。いくら変装していても、どうしたって人を集めてしまうんでしょう』
「君、平気で男トイレに入るんだな…」
『驚いたのはそっちか!』
「そんなふうに育てた覚えはないのに…」
『育てられた覚えもないですからね』
右手を口元に当て、千は悲しげな瞳をこちらに向けた。
とにかく、だ。これから行動するにあたり、いちいち人に囲まれては動き辛くて堪らない。
帽子とマスクを着用しただけでは、彼の眩いオーラを消す事は出来ていないのだ。だったら、もっと凝った変装を施すしかあるまい。
『やっぱり、この長い髪が美し過ぎるんですよね』
「急に褒められた」
私は千を鏡の前に立たせると、彼の髪を縛る。そして帽子の中に収めた。それからマスクを着用。これで少しは、Re:valeの千からイメージが遠くなっただろう。