第53章 隣にいるのは君が良いな
「新幹線と飛行機、どっちが良いんだろう」
『新幹線でしょう。新幹線でしょう』
「どうして2回言ったの?」
SPの男性は、速やかに車を発進させた。
いつもは自分が運転しているような車。その後部座席に座っているのは、どうにも不思議な感覚だった。
しかも、隣にいるのはTRIGGERではなくRe:valeの千。まだ頭が少し混乱している。
『SPなんて使わないで、普通に千さんが声を掛けてくれれば良かったのに…』
「僕が、京都に行こう。車に乗って。って言ったら、君は大人しく乗ってくれた?」
『乗ってませんね』
「でしょう?だから、とりあえずは強引にでも車に乗ってもらって。そこからゆっくり話をしようと思ったのに…君は…ふふっ」
彼は思い出し笑いを堪える為に口元へ手をやるが、全くもって隠し切れていなかった。
千は、私がそれなりの戦闘力を持っている事を知らなかったのだろう。そういえば、打ち明けた記憶がない。
だからこそ 不意を突かれて、笑いのツボにハマってしまったのかもしれない。
『もう良い加減に飽きて下さいよ。千さん、ほんとゲラですよね』
「ふふ、そうね。僕ってゲラなんだよ。あまりそうは見えないだろ?」
『はいはい。見えないですよ。
ところで、今日は百さんはお仕事なんですか?』
「うん。僕達2人が揃ってオフなんて、まぁある事じゃないから」
『ですよね。さすが売れっ子アイドル』
「…デートの相手が、僕1人じゃ不満かな?」
ごくごく小さな声で言い、千は顔を傾けた。
『まさか。トップアイドル 千さんのお相手でしょう?私の方が役者不足じゃないか不安ですよ。
とりあえず…12万円分の働きは、したいと思ってます』
私が冗談めかしてそう言うと、彼はまた 楽しそうに笑顔を返してくれるのだった。