第52章 D.C
会話が出来るくらい。息が上がり切ってしまわないペースを保つ。
互いにフード付きパーカーを着て、ゆるゆると隣を走る。秋の朝特有の、少しひんやりとした空気。朝日が反射してキラキラした川面。穏やかな時間。心が癒されるのを感じた。
「昨日の夜…天と喧嘩してた?」
『!!』
心拍数が上がったかもしれない。無論、ランニングの影響では無い。
『…うるさくして、しまいましたか?』
「あ、ううん!内容とかは勿論聞こえてないし、うるさいとも思わなかったよ?
ただ、ちょっと…言い争ってるのかな?って、思った瞬間があっただけで」
チラリと、隣を走る男の顔を見上げる。すると彼もまた、こちらを見ていた。にこっと、フードの中から優しい笑顔を覗かせている。
どうして彼の笑顔は、こうも私を安堵させるのだろうか。
『まぁ…少し、話はしました。喧嘩とは、少し違うかも知れませんが、仲直りはしましたよ?』
「そっか。それを聞いて、安心した。
でも、2人は俺から見ると とても仲良しなのに。やっぱり、たまには喧嘩もするんだね」
喧嘩もするんだ。そう言う龍之介は、どこか嬉しそうで。台詞と態度がチグハグだな、と私は思った。
彼は こう続ける。
「仲良くなったからこそ、たまには喧嘩もしちゃうのかな?」
『!!
そうですね。はい。きっとそうです…。
大切な人との、距離感ほど…難しいものは ないですよね』
私と龍之介は、少しだけペースを上げて、2人の待つ寮へと戻るのであった。