第52章 D.C
私の長い本心を受け取った彼は、しばらく天井を見つめていた。上手く説明出来なかったせいで、咀嚼に時間がかかっているのかもしれない。
しかし私はもう、これ以上 気持ちを説明出来る言葉を持ち合わせていない。
分かりにくくてごめん。そう言おうとした時、天はようやく口を開く。
「ボクは…天使なんかじゃない」
『……天』
「天使だ、綺麗だって持て囃されるのは、カメラの向こうだけで充分。
教えてよ…。天使をやめれば、キミの心を覗けるの?だったらボクは、綺麗な羽も頭上の輪っかもいらないよ。たとえそれで、悪魔になってしまったとしても。
ねぇ…答えて。一体 どれくらい汚れれば、ボクはキミに触れられる?」
自分の胸に手を当てて、強く 強く訴えかけてくる天。彼に、こんな辛い顔をさせているのが自分だと思うと…酷く腹立たしかった。
でも、私は 彼を突き放さなければならない。
欲しくない、訳じゃない。
でも、TRIGGERのセンターを、失う訳にはいかないのだ。
いずれ世界中から求められるようになるであろう、九条天という男を…私が、手に入れて良いはずなんて無い。
『そんな貴方を、ファンが見たいと思う?』
「っ……!」
こんな余裕のない表情の天は、見た事がない。プライベートでも。勿論、カメラの前でも。
私はそんな、まるで普通の男の子みたいな天を抱き締める。そしてそのまま、ベットへと共に倒れ込んだ。
「な、」
『天は、知らないのかな。なら私が教えてあげる。
べつに、体と体を繋げなくたって。お互いの心を見せ合う事は出来るよ。
ほら…こうやって』
私は、天の体を抱き締めて、胸元に顔を埋める。
『ぎゅぅって、相手の体を抱き締めるの。そしたらほら、見えて来ない?
天の事が大好きだよっていう、私の心の中が』
「……」
天は何も答えなかった。こういう愛情は、求めていなかったのだろうか。
機嫌を損ねたかと不安になった時、天はようやく私の背中に腕を回した。
「今夜は…一晩中、このまま抱き締めていても良い?」
『……うん勿論。天がそう、望むなら』
「そう。良かった。なら、きっとキミにも伝わるね。
ボクの、キミを強く想う心が」