第52章 D.C
「もう冷静になったから、聞かせて欲しいんだけど」
『なに?』
「ボクが、ああいうふうに触れるのは…キミは嫌だった?」
『え…』
「もしも、あのまま止まらなかったら…ボクは、キミを傷付けてた?」
何とも答えにくい質問である。しかし、天の瞳は真剣そのものだった。相手の本気には、こちらも本気で。はぐらかす事なく答えを返す。それが私の心情だ。
『傷付きはしない。私は天の事が好きだから。
でも…出来ることなら、天とはしたくない』
「ハッキリ、言ってくれるね」
『ごめん。でも、私の本心だから。天に嘘はつきたくない』
「じゃあ教えてよ。どうして彼は良くて、ボクは駄目なのか答えて」
『やま……あの眼鏡と天は、』
「ごめん。話が入って来ないから、大和って呼んでいい」
『了解。
大和と天は、あまりに違うから』
そもそも大和と行為に及んだのは “ 取引 ” があったからなのだが。それはもはや後付けに過ぎない。
今では彼と、取引 関係なくして行為に及んでも良いと考えている時点で、その言い訳は通用しないのだ。
『大和は…私と少し似た部分がある。
狡猾で、汚い自分を認めてる。まぁ、彼のそういうところが、私は好きだったりするんだけど。
とにかく、そういう部分を大和が持っていたから…私が触っても大丈夫かなって思ったの。
汚れた大人同士が、お互いの心を少しだけ見せ合った。そんな感じかな。
でもね…天は、駄目』
「……どうして?ボクだって、キミの心が見てみたいよ」
『ううん。駄目。
だって天は…こんなにも綺麗なんだもん。私や大和みたいに、穢れを知らない無垢な…
そう。天使みたいに、貴方は綺麗だから。
私なんかに触ったらいけないよ。その美しい心が、汚れてしまったら…私は悲しい』