第52章 D.C
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『…あは、は。天でも冗談、言うんだねぇ、おもしろーい』
私は、じりじりと距離を詰めてくる天から、後退りで距離を取る。しかし彼は、そんな私を着実に追い詰める。
「あいにくと、ボクは冗談がそれほど好きじゃないんだけど」
膝の裏に、何かが当たる。それは、ベットだった。しまった!と思った時にはもう、私は後ろ向きに倒れ込んでしまっていた。
それは言わずもがな、ベットの上だ。
「…自分からベットの上に倒れてくれるなんて。もしかして、満更でもなかったり…する?」
『……夜這いって。本当に、冗談じゃないの?』
「2度同じ事を言うのも、それほど好きじゃないんだよね」
天は、私の上に覆い被さる。彼が膝をベットへ上げると、ギシっと軋み音がした。
綺麗な指で 私の髪をひと束 掬い上げると、ちゅ と唇を触れさせた。
そして、首筋に顔を埋める。天の温かい吐息が、鼻先が、耳の裏辺りをくすぐった。
『っ、ちょ!待っ』
「シー」
天は、声を上げそうになる私の唇に 自らの唇を合わせる。そうする事で、私の声はくぐもって消える。
『やっ、め』
「…隣、龍の部屋だよね。あまり大きな声を出すと…聞かれちゃうんじゃない?」
『それが分かってて、なんで』
「大丈夫。キミがどれだけ良い声を出しても…今みたいに、ボクが全部 食べてあげるから」
天の中指が、つぅ と脇腹をなぞる。それだけでまた、声が上がりそうになってしまう。しかし、今度は自分の手で口元を覆った。
「…キミの唇を塞ぐ役目は、ボクに任せてくれれば良いのに」
私を見下ろす天の瞳は、怪しく濡れていた。