第52章 D.C
【2日目・その後】
思いの外、楽しんでしまった寮体験。気付けばもう終わりが近付いていた。明日の朝にエンディングトークを撮れば、撮影は終了となる。
この企画が始まるまでは、不安もあったが。結果として、いつもよりも少しだけ春人でいる時間が伸びただけだった。
楽にも龍之介にも、怪しまれることは何もなかったように思う。
入浴を終えた私は、ウィッグとさらしをテーブルの上へ置いた。そして、姉鷺が取り付けてくれた内鍵に手をかけた。ちょうどその時。
小さなノックの音が、遠慮がちに部屋に響いた。
『!!
ちょ、ちょっと待って下さいね』
私は、声が裏返らないように注意して返事をした。もしも今、ドアの前に立っているのが楽か龍之介だとしたら、非常にマズイ。
どうすればいい?とにかくウィッグを被って靴を履いて、胸はもうどうにかして隠すしかない。さらしを巻いている時間は…
「ボクだよ。1人」
その声を聞いた途端、体の緊張が一気に緩んだ。良かった。天であれば、何も慌てる必要などない。
私は、ゆっくりと扉を開くのだった。
『どうしましたか』
「…今は春人じゃなくて、エリでしょ」
『あぁ…そうだったね』
エリの姿で敬語を使った私を、天は優しく諌めた。
『でも、こんな時間に本当にどうしたの?』
「どうしたんだと、思う?」
顔に貼り付けられた冷笑。なんだか少しだけ怖くなって、私は軽いジョークで答える。
『え、あー、なんだろ。まさか、夜這いとか?あはは』
「ふぅん。鋭いね」
天が、後ろ手で内鍵を閉める音が…カチャリと、密室に放たれ。やがて完全に消失した。