第52章 D.C
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部屋に入って来た時から、天はどこかおかしかった。何かに焦っているような。愛情でも、劣情でもない。何か別の、他の気持ちに 強く突き動かされているような。
天の指が、するりとシャツの裾から侵入する。しかし私は、抵抗しない。ただ、声を上げないように唇を噛んでいた。
彼の手は、徐々に上へと移動して。膨らみに触れる。壊れ物を扱うように、優しく、左右から包み込むように触れた。
人差し指で、頂上の乳頭を刺激されれば、勝手に腰が揺れた。
『〜〜〜っ』
「……は、」
天は息をつくと、舌先だけを出して、鎖骨を舐め上げる。そして、胸を触っていた手を、下腹部へ移動させる。
それでも私は動かない。ただ、声を殺すことだけに努めた。
ショーツの中に指が入るか入らないか…
そのタイミングで、天はやっと私を見た。
「エリ…どうして、抵抗しないの?」
『は…っ、はぁ…。だって…何か、あったんでしょう…?』
「!!」
『辛い事が…、悲しい事が、あった?
もし、私の考えが当たっていて…私とこうする事で、天の傷が癒えるんだったら、私は抵抗なんかしないよ。
だから、後で教えてね。どうして天が、そんなに悲しい目をして、私に触れるのか』
天は、私の上で大きな瞳を揺らした。
きゅっと唇を結んで、息を飲んでいた。
やがて、ぽつりぽつりと言葉をこぼした。
「…キミには、やっぱり…敵わないな」
泣きそうな顔で笑う。そして、乱れた私の服を整えながら続ける。
「ごめん。こんなふうに…キミに触れたかったわけじゃないのに」
服を直し終わったら、ベットの縁に座り直した。私も彼に倣って、隣に座る。