第52章 D.C

「春人くんは、いつも色んな事考えてて偉いよね…自分がカメラの前に立つわけじゃないのに」


確かに私は、芸人という立場ではない。しかし、こうやって細かな思考を練ることでTRIGGERの役に立てるのならば、いくらだって考える。


「ボクは、キミの言っている事を凄く理解出来るよ。でも、こういう内容の話をすると、いつも決まって」

「俺は、ありのままの自分で勝負したいけどな」

「って。目くじらを立てる男が突っかかって来るんだよね」


天が肩をすくめて言った。分かっていた事ではあるが、楽は私や天の考えには賛同しかねるらしい。


「偽りの自分を好きになってもらったって、何も嬉しくねぇだろ。ファンに嘘吐いてまで、人気が欲しいとは思わない」

『……そうですか』


以前の私ならきっと、こう答えた。
自分が嬉しくなる為に、この仕事をしているのか？楽が楽らしさを着飾ることで、ファンはもっと幸せになれるのに。

でも今は、それを口にするのは控える。


『楽は、楽のしたいようにすれば良いと思います』

「え…いいのか？」

『はい。ですが、あまりに目に余る時や、もっと良い方法がある。と 私が思い付いた時は、その都度 助言させてもらったり、手や口を出させてもらいます。
それくらいなら、いいでしょう？』

「…寝癖を半分だけ直したり、か？」

『ふふ。その通りです』

「当然だろ。これからも、よろしく頼むよ」

『良かった。それすら禁止されてしまったら、私の存在意義が地に落ちてしまうところでしたよ。

では…龍の寝癖も半分ほど直りましたし、撮影の続きを始めましょう』


私は、彼らを大切なパートナーだと思っている。
大切なパートナーには、自分の意見を押し付けたりはしないだろう。大切だから、思い遣って、尊重したいのだ。

もっと言えば、私はTRIGGERが 最後のパートナーになると信じたい。

もしも、また 最初からやり直し。なんて事になって、目の前からTRIGGERが消えてしまうなんて…想像するだけで恐ろしい。

だから、慎重に。彼らと、ゆっくりと進みたい。

間違っても、うっかり D.C の記号を踏まないように。