第52章 D.C
『いくらオフの貴方達をファンに見てもらいたくても、この龍はさすがに見せられません』
「な、なんだか ごめんね。
でも難しいなぁ…自然体過ぎても問題なんだ。俺の場合」
「ファンの夢を壊しかねない造形の頭だったよね」
天の言葉に、楽は再び龍之介の髪型を見る。そして、笑いを堪えて顔を背けた。
『ですが、寝癖は良いですよ。少しなら。いい具合にオフ感出るじゃないですか。
ってことで、半分だけ直すので洗面台に来て下さい』
「誰かに寝癖を半分直される日が来るなんて、思ってなかったよ」
龍之介は、苦笑しながらも私の後ろを付いて来た。この状況を面白がっている天と楽も、後ろからやって来た。
『私が今回の企画で理想としているのは…
“ ナチュラルメイク ” です』
「だから結局は “ ほぼ自然体 ” ってことだろ?」
『…驚きました。楽は、世の女性が施しているナチュラルメイクを、軽い化粧だとでも認識しているんですか?』
龍之介の髪を濡らして、櫛でとかしながら。私は鏡越しに楽を見上げた。
「え、それって間違ってるのか?」
『ナチュラルメイクとは “ ナチュラルメイクに見えるガッツリメイク ” ですよ。
合コンとかで、私今日 ナチュラルメイクなんですよーって言う女性。本当に軽い化粧で勝負の場に赴いているはずがないでしょう。
派手に見えないよう、それでいて最大限に自分を輝かせる為、時間と手間をかけているんですよ。彼女達は』
「えっと…で?つまりどういう事だよ」
『貴方達も、ファンが望む自身の自然体がどんなものか。よく考えてカメラの前に立って欲しいんです。
本当の自分を見て欲しいからと言って、馬鹿正直に 軽い化粧だけで勝負しよう。なんて、ファンの夢を壊さないようにお願いしたいな、と』