第52章 D.C
「おい…誰だ。鍋にトマト入れたの」
「ボクじゃないよ」
「え?俺でもないけど」
そして、3人はくるりと カメラの横に立つ私を見る。
『温かいトマト、好きなんです』
「お前か春人!」
私がこの寮にお邪魔していることは、オープニングトークで説明済みだ。だからと言って、画角に居座ったり出しゃばったりするつもりは毛頭無い。
あくまで、いちスタッフ。3人の手伝いや、掛けられた声にだけ反応する、おまけに過ぎない。
その程度で、謎のプロデューサーに興味がある人間に 満足してもらえるかは分からないが。これが、私の限界だ。
「あれ。玉子がない…」
「おいおい、それじゃ締めの雑炊が出来ねぇな」
「麺も無い?」
「ごめん…雑炊にしようと思ってたから、うどんも黄そばも買ってないんだ。
ちょっと今からコンビニに行ってくるよ!」
そう言って、わざわざ買い出しに行こうとする龍之介。そんな彼を私は静止した。
カメラに背を向けたまま、冷蔵庫へ向かう。
『玉子が無くても大丈夫な締め、私が作ります』
「本当?ありがとう!何か手伝おうか?」
『簡単なので大丈夫です。座って待ってて下さい』
「春人の料理か…不安しかねぇな」
「極端だよね。ズバ抜けて美味しいか、ただの栄養素か」
なんとも不名誉な中傷を背中に浴びる。2人は、これが全国ネットである事を覚えているのだろうか。
とにかく、作業に取り掛かろう。
まずはご飯を洗う。水を切っている間に、トマトを角切りにする。鍋の残り汁に少量の塩を入れて、味を整える。
あとは この中に、先程の洗いご飯とトマトを投入。しばし煮る。
そして、明日の朝作る予定のピザトースト用に買ってあった、スライスチーズとバジルを投入して蒸らし。
『出来ましたよ。寄せ鍋トマトチーズリゾットです』
お玉でぐちゃぐちゃにかき混ぜて、メンバー達に配る。
「またトマト……。おわ、美味い!!」
「本当だ!和風のトマトチーズリゾットだね。凄く美味しいよ!」
「こんな短時間で作れちゃうなんて。やるね、プロデューサー」
私は画角から外れてから、3人に微笑んだ。