第52章 D.C
D.Cの文字に指を這わせて物思いに耽る。
姉鷺は一体どういうつもりで、私の部屋の扉に この文字を入れたのか。
ダ・カーポ。 “ 最初から ”
“ 最初に戻って繰り返す ”
『 D.C…か。出来るなら、これだけは勘弁してもらいたいですね』
思えば私は、何度も何度も 人生を繰り返して生きているみたいだ。
アイドルを目指し努力を重ね、Lio が生まれた。しかしその生涯はあまりに短く、幕を閉じた。
その後再び、ミクというパートナーと 音楽の道を歩んだが。その道ももう、今では遥か後ろのように感じる。
そして私は…また、新しくやり直している。
今は、TRIGGERというパートナーと一緒に。
幾度となく繰り返せど、私の隣には必ず音楽があった。それは、きっとこれからも変わらないのだろう。
しかし出来ることなら、もうやり直しはしたくない。
出来ることなら、ずっとずっと彼らと一緒に…これからの道を歩んで行きたい。
私はそう願っているが。もしかすると私の音楽人生は、また “ D.C ” してしまうのだろうか。
「おい、何ぼーっとしてんだよ。3人は風呂場見に行ったぜ」
『楽…。いえ、少し… D.Cについて、考えていました』
「 D.Cか。まぁ、譜面にはよく出て来る記号だよな。それがどうかしたのか?」
『私は、あまり好きじゃないんです。楽は この記号に、どんなイメージを持っていますか?』
楽は少し頭を傾け、不思議そうに言った。
「イメージっつってもな…。普通に考えりゃ、最初から。とか繰り返し。だろ?
まぁでも、今パッと頭に浮かんだのは…
何度だって、やり直せる」
『!』
「もし失敗や間違いがあっても、また最初っからやり直せばいい。気に入らない部分とか、挫折しかけるような事が起こっても、D.Cって記号さえありゃ、何回だってリスタートだ。それってなんか、最強じゃねぇか。だろ?」
にかっと歯を見せて、楽は笑った。私の、暗く狭くなった視界が急激に開けるのを感じた。
「ん?どうかしたか?」
『いえ…少し、思っただけです。私、そういう前向きな考え方をする楽が好…』
「…す?」
『すこぶる評価してます』
「お前は教師か」
“ 好き ”
以前なら、何の躊躇もなく口から出た言葉なのに。どうしてか今は、変に喉でつっかえた。