第51章 腹いせに変なとこ触ってやる
「停電!?あー、だから何回ピンポンしても、誰も出てくんなかったんだな」
環は、三月お手製のクリームシチューをふーふーしながら言った。
「だからって、あんなにドンドン玄関叩くなよ!あれには本気でビビったんだからな…」
「はは。ビビってたのは、主にミツとナギだけどな」
「うっせーよ!」
三月は、揶揄う大和に向かって叫んだ。
「中が真っ暗である時点で、停電を疑って下さいよ…。窓の外から、中の様子を伺っていたでしょう」
「あぁー。なんか、皆んなでロウソク囲んで遊んでんのかなって」
一織が見たという、窓の外をうろつく人影。あれも、紛う事なき環であった。
「窓割ったのは、本当にキミじゃないんだね?」
「さすがに、そこまでしねーって!俺、自分の部屋の窓の鍵、大体閉め忘れってっから、そっから入った」
「…無警戒にもほどがあるでしょ、それ」
どうやら、窓ガラスが割れたのは本当に不慮の事故らしかった。大和が見つけたという、折れた木の枝。強風のせいで、それが窓ガラスに向かって飛ばされ、運悪く ぶつかったのだろう。
まだ気になる事はある。上階の異変だ。
水溜りは、びしょ濡れになった環が作ったものだろう。では、ナギが血と間違ったジャムは?
「タマキ。アナタ、ジャムを持ち歩いているのですか?」
私も気になっていた事を、ナギが言った。しかし環は首を傾げている。
答えられないでいる彼の代わりに、大和が口を開く。そして、ある物を指差していた。
「ジャムの答えは…アレだな」
「??
タマキの私服ですか…? OH!ポケットの辺りが、激しく汚れています!」
「あぁーー!俺が後で食べようと思ってたパン!うぅ、ぺったんこになってんじゃん…!
あ。もしかして、さっき上で こけた時に潰れたのかも」
三月が、服にへばり付いたジャムパンを悲しげな瞳で見つめている。これは私の勝手な予想だが…彼はきっと、洗濯が大変だなぁと 打ちひしがれているのではないだろうか。