第51章 腹いせに変なとこ触ってやる
「NOーーーー!!ついに、ついに出ましたーー!」
ナギの叫びに反応するように、凄まじい勢いで距離を詰めてくる何者か。
すかさず構えを取ろうとするが、ここで大誤算に気付く。
『っ、』
(しまった!)
ナギにしがみつかれている体勢では、戦う事が出来ない。身動きが取れないのだ!
それを見た天が、手にしていた懐中電灯を投げる。しかし何者かは、そんな攻撃は何も問題はない。とばかりに、ひょいと躱す。
もう、目の前にまで迫っている。こうなったら、片足と片腕だけで戦うか?それともナギを投げ飛ばしてから戦うか?
思考を巡らせていた私の前に、天が飛び出した。
「危ない!」
何者かと私の間に、両手を広げた天が立ちはだかる。
瞬時に血の気が引く。
あぁ、この感覚には覚えがある。
楽との擬似デートの時。ゲームセンターの前。ナイフを持った、女。
嫌な記憶がフラッシュバックする。もしも、こいつもナイフを隠し持っていたとしたら…天が…
『 天…!!』
私は力の限り、彼の名前を叫んでいた。
どうか、どうか狙うのなら、私に!
そんな願いが届いたかのように、何者かは 立ちはだかった天をするりと避ける。そして、私に向かって突進して来たのだ。
自身が刺されるかもしれないというのに、私の頭に浮かんでいるのは、良かった。という4文字だった。
しかし、予想していたような衝撃は来なかった。ただ、ガバ!っと抱きすくめられたのだ。
『!!』
抱き締められた瞬間、すぐに分かった。
“ 何者か ” の、正体が。
天が、すぐに私から彼を引き離そうと、後ろ襟首を引っ掴む。それを見て私は必死に叫ぶ。
『天!大丈夫です!彼は』
チカチカ、と蛍光灯が明滅した後、久方振りに暗闇から解放された。ようやく電気が復旧したのだ。
そこでようやく全員が、何者かの正体に気が付くこととなる。
「タマ!?」
「環!?」
「四葉さん!?」
「タマキ!!」
メンバー達が、それぞれの呼び方で 環の名前を叫ぶのだった。
天は、瞳が溢れんばかりに目を大きく見開いていたが。やがて、掴んでいた襟を そっと離した。