第1章 もしかしなくても、これって脅迫ってヤツですか?
私は彼が持って来た契約書にどんどん目を通していく。
約款の隣に用意された四角に、確認出来たものからチェックを入れていく。
『ぅわ、めちゃくちゃ給料良い…』ありがた
意外とホワイト企業なのか?前の事務所に比べると、むしろ高待遇だ。
順調に、最後の項目まで到達。そこまで来て、初めて首を捻る。
『………んん?
これ、どういう意味ですか?』
「どうもこうも、読んだままよ」
読んだままって…。
約款には、こう記されている。
《 TRIGGERのプロデュース業にあたる際は、常に男として装い 振舞う事 》
『えっとつまり、姉鷺さんの逆?私に、男装しろって事ですか』
「とりあえず、隣の部屋に最低限の物は用意してあるから」
ぐいぐいと姉鷺に背中を押されて、隣にある小会議室に押し込められる。
暗い部屋の電気を付けると、いくつかの品が用意されているのが確認出来る。
『…これらを身につけろって事かな』
まずスーツ。見たら分かる。上物の奴だ。そしてもちろん男物。
そして靴。見た事も無いぐらいの厚底だ。私はもともと背の低い方ではないから、これを装着すれば全長175センチぐらいにはなるだろう。
次は…地毛よりも少し短い程度の ウィッグ。耳に髪が少しかかるくらい。襟足部分が絶妙に色っぽく見える長さである。
おぉ、小物まで男物とは凝っている。私は手首ヒンヤリとした感触の時計を巻き付ける。
最後はカラコン。念には念を入れているのだろうか。まぁLioの姿から遠退くのは、こちらとしても好都合だ。
何故、男装を求められているのかまだ分からないが…
姿見に写る自分は、まぁそれなりに男に見えた。