第51章 腹いせに変なとこ触ってやる
『言っておきますけど、麻雀を好きな業界人は多いですよ。実際、私も色んな人と雀卓を囲んで来ました。
飲み会、麻雀、ゴルフ。いつか貴方自身が接待をするつもりなら、この3つは必須と心得なさい。
酒の強さは生まれ持った体質が物を言いますが、麻雀とゴルフは努力次第でどうとでもなります。今の内に、腕を磨いておくことをお勧めしますよ?』
「さぁ、ルールを教えて下さい」
一織は、ローテーブルの前に正座した。
「イチ…、お兄さんは、なんか悲しい」
「簡単に落城し過ぎ」
ここで、私と大和による麻雀講座が始まった。
裏向きに伏せられた大量の麻雀牌。これをプレイヤーが順番に、1つ取って1つ捨てる。
そうして、自分の手牌を育てていくゲームだ。
「意外とシンプルなんですね」
「シンプルそうに見えて、実は奥深いのが麻雀の面白いとこ」
『同意です。
全ての役を覚えるのは難しいでしょうから、初めは携帯などで役を見ながら手を育てていくといいですよ』
簡単なルールを説明した後は、練習プレイをすることにした。実際に牌に触れながら教えた方が分かりやすいだろう。
たどたどしい手付きで、天が牌をつまむ。
「あ、大切な事を決めてなかったな。
テンゴでいいか?」
『妥当でしょうね』
「「テンゴ?」」
テンゴとは、1000点50円のレート。いわゆる、賭け麻雀である。
当然、麻雀にお金を賭けるのは犯罪だ。しかしながら、実際にノーレートで麻雀をやる人間などほとんどいない。皆、密かに賭けているものだ。
が、真面目な天と一織には内密で進めた方がいいだろう。
私と大和は、頷き合った。
天が失った点は私が。一織が失った点は大和が、それに応じた金額を支払う事になる。そういう暗黙のルールが私達の中でだけ成立した。