第50章 お慕い申し上げておりました
peachにチャットでメッセージを送る。
《 今日はボイチャなしで 》
するとすぐに返事が。
《 了解! 》
ナギは、私のアカウントをまじまじと見つめる。
「春人氏は、バッチを付けない派なのですね?」
『はい。嫌いなんですよね。あれで実力を判断されるのが』
「なんて言いつつも、アナタ実はバッチを獲得していないのではないですか?
春人氏、いまアナタはどこのランクにいるのです?」
『……プラチナ』
私のいる地帯を聞いて、ナギが高らかに笑った。ナギのランクはダイヤ。格下地帯にいるので馬鹿にされるのも頷けるが、こうも下に見られてはゲーマー魂に火が付く。
『前シーズン*11 と今シーズン、あまりプレイ出来ていなかったので、ランクが下がったんですよ』
「ふふんっ。低ランクにいる人間の常套句ですね」
『…六弥さん』
「??」
『髪留め、あります?』
「輪ゴムならありますよ」
私はナギからそれを受け取ると、前髪をちょんまげ縛りにする。これで長い前髪に、煩わしさを感じることはない。
要は、本気を出せる。
指の関節を鳴らして、マウスを軽く握る。
『ここからは、瞬き禁止ね。私のプレイを少しでも見逃せば、きっと後悔するよ』
「ワタシ、マウスを握って性格が変わる人間初めて見ました。リアルに存在しているのですね…」
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*11 シーズン…定期的にシーズンが切り替わる。切り替われば、強制的にランクリセットとなる。さらに長期プレイせずにキルポを稼がなければ、どんどん下の地帯へと降格してしまう仕様。