第50章 お慕い申し上げておりました
やはりゲーミングチェアは座り心地が違う。自前が欲しいのは山々だが、これがかなりかさ張るのだ。私の部屋に置くのは現実的でない。狭い部屋がさらに狭くなってしまう。
『…自分のアカウントで入り直しても良いですか?』
「OF COURSE!他人の設定したボタン配置*8 や感度*9 では、良いプレイなど不可能です」
ナギの快諾は得た。私は一度ログアウトして、自分のアカウントで入り直す。
私のアカウント名は “ Lio ” である。それを見たナギが乾いた笑みをこぼす。
「OH…神の名を騙るなど、春人氏は 随分とおこがましい真似をしていますね」
『??』
彼の言っている言葉の意味がよく分からない。しかし、質問をする前にモニターに変化があった。
私のフレンドから、ゲームの誘いがあったのだ。要は、一緒にパーティを組んで戦いに行きましょう。という勧誘だ。
フレンドの名前は “ Peach ” よく共に戦場に赴く、私の唯一のフレンドさんである。
せっかく誘ってもらったのだが、今回はお断りする事にしよう。ナギは野良とパーティを組んだのだ。私だけ、連携の取り慣れた仲間と組んでは不公平だろう。
しかし。拒否、のボタンをクリックしようとする私を、ナギが止めた。
「パーティを組んでも結構ですよ?せっかく申請をしてくれたのですから」
『いいんですか?では、お言葉甘えて。ボイチャ*10 はオフにするので』
「それでOKです。紳士たるもの、女性からの誘いを断るものではないですからね」
『Peachは男性ですけどね』
「…OH。愛らしい名前ですのに。ワタシを騙しましたね。計画的犯行です」
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*8 ボタン配置…Ipexでは、非常に細かくカスタム出来る。どこをクリックすれば発砲、どこをクリックすればアイテム使用。など、プレイヤーによって様々。
*9 感度…照準を動かす速さ。感度が高ければ、マウスを少し動かすだけでキャラ視点が大きく移動する。低ければ、マウスを大きく動かしても視点は少ししか動かない。
*10 ボイチャ…ボイスチャットの略。実際に会話をして連携を取ることが出来る。より緻密な計略の実行が可能となり、勝率がぐんと上がる。