第50章 お慕い申し上げておりました
「さて、何で勝負をつけましょうか」
『あ。Ipexがあるじゃないですか』
ゲーミングチェアに座るナギの肩口から、顔を覗かせて言った。
何を隠そうこのゲームは、私が人生で最も腐っていた時に世話になっていたもの。世話になったどころか、この命を救ってくれたゲームと言っても過言ではない。
「…春人氏。ワタシにこのゲームで挑むというのですか?
ふぅ…それは、非常に愚かな選択です」
私は、ナギの握るマウスに注目する。これは、ただのマウスではない。ゲーミングマウスだ。しかも、FPS *1 に特化したもの。
複雑な操作を可能にするために、ボタンが無数に付いている。さらには高い読み取り精度を誇り、円滑にポインタを動かすことが出来る代物だ。
『私も好きですよ、Ipex。これにしましょう』
「いいでしょう。アナタの泣き叫ぶ顔が、今から目に浮かぶようです」
たとえゲームで負けたとしても、泣き叫んだりはしない。私は大人だから。
このゲームは、チーム戦しかない。友達、もしくは野良*2 とチームを組み、バトルロワイヤルを勝ち上がるものだ。
フィールドに解き放たれたプレイヤーは、最後の1チームになるまで殺し合う。
迅速に強力な武器を掻き集め、キャラの能力を駆使し、1位を目指すのだ。
「まずはワタシから行きます。異存はありますか?」
『いえ』
「野良プレイで参加し、総ダメージ数で 勝敗を競いましょう」
『了解です』
要は、より多く敵に、多くのダメージを与えた方の勝ち。ということだ。
自分がどのくらいのダメージを与えたのかは、プレイ終了後のリザルト画面に表示される。
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*1 FPS…First Person Shooterの略。一人称視点のシューティングゲームを指した言葉。
*2 野良…オンラインにて複数人でプレイする際に、面識がないが同じパーティにいるプレイヤーを指す。また、知り合いとパーティーやチームを組んだりせず、一人で参加することを野良プレイと呼ぶ。
【参考:eスポ、ゲーム用語集】