第50章 お慕い申し上げておりました
—— 天と大和の修羅場中 / ナギの部屋 ——
強引に連れて来られてしまった。
「テレビの前で、どうぞ楽にしていてください」
『はぁ…』
私の浮かない返事を気にも留めないナギ。彼は、鼻歌を歌いながら、DVDが並んだ棚の前に立っている。これからどれを鑑賞しようか吟味しているのだろう。
アニメは好きだが、美少女萌え系は 私の管轄外なのだ。さて、どうにかして観ずに済む方法はないかと模索してみる。
すると、ある物が目に留まった。
デスクの上に並んだ、3つものモニター。それに本格的なゲーミングチェアだ。
これだ、と思った私は 堪らず声を掛ける。
『六弥さん、ゲームをするんですか?』
「YES!アニメとゲームは、ニホン文化の宝。人並み以上に嗜んでおりますよ」
『私も、ゲームは少し得意なんです。どうですか?対戦でもしてみません?』
「魅力的なお誘いではありますが、ワタシはもうアニメ鑑賞のクチになっているのです…」
アニメ鑑賞のクチとは一体なんだ。そうツッコミたい気持ちをぐっと堪え、ナギを挑発する。
『おや、もしかして…得意のゲームで私に負けるのが怖いですか?
そうですか…それなら仕方ないですね。当初の予定通り、貴方オススメのアニメを観ましょうか』
「……」
沈黙してしまったナギ。挑発の言葉が少々過激だったろうか?
チロリと視線を上げて、彼を見やる。
「春人氏。
ニホンで生まれたコトワザに、こういうものがあります。
“ 井の中のカエル ”
まさに、アナタを体現しているかのようなコトワザ。いかに自分が非力なカエルであるかを、ワタシが今から思い知らせてさしあげましょう」
井の中の蛙は、いのなかのかわず。と読む。それに、その諺が生まれたのは日本ではなく中国。
言いたいことは色々あったが、とりあえず私の目的は果たせたようなので、大人しく口を噤んだ。