第50章 お慕い申し上げておりました
「エリは、そういう人間だ。
TRIGGERに迷惑をかけたくない。そう考えて、誰にも何も告げずに消える。
キミにしても、それは困るはず。彼女とのなけなしの接点すら、失う事になるからね」
「なけなしとか言うなよ。
ま、たしかに…。エリは…そういう奴だよな」
多くの業界人が動けば、自ずとマスコミも動く。そうなれば、八乙女事務所も無傷とはいかないだろう。
何故、今までLioを抱えながら沈黙を貫いていたのか。デビューさせる気はないのか。しばらくは そんな質問を浴びせられることになる。
八乙女事務所やTRIGGERのブランドに傷が付くようなスキャンダルを、エリが良しとするはずがない。
「だから、今日みたいな展開は正直に言って最悪だよ」
今日みたいな。とは、エリがカメラの前に立ってしまったことだろう。
いくら春人の姿だったとはいえ…
「いくら春人の姿だったとはいえ、これ以上はメディアへの露出を避けるべきだ。何がきっかけで、誰が気付くともしれない。
エリがボクといる時は、ボクが気を付ける。
キミも、出来る限り気を配って欲しい」
「…分かった。俺としても、これ以上 エリが女だって知られて、ライバルが増えるのはごめんだからな」
そう言うと、天は少し 安堵したようだった。
そんな彼に 俺は右手を差し出す。
「…なに?」
「共同戦線 成立の記念に、握手でもしとくか?」
「冗談でしょ」
つれない態度に、乾いた笑いを ひとつ零す。
「はは。ま、お互い頑張りましょーや。これ以上、エリの秘密を知る人間を増やさな」
「 UNBELIEVABLE!!ま、まさかアナタ!!アナタが伝説の…Lioだと言うのですか!?」
ナギの部屋から聞こえてきた声に、俺達は互いの顔を見合わせた。そしてどちらが早いか、その声の方向へ全速で駆け出すのであった。
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