第50章 お慕い申し上げておりました
「GGーーー!!」
またもナギの部屋から奇声が。
「ほんとにうるさい。
……アメイジングとかファンタスティックなら意味が分かるけど。
ggってなに?暗号?」
「俺が知るわけないでしょ」
軽く溜息をこぼすと、天は気を取り直して話題を元に戻した。
「ともかく、キミが本気だってことは伝わったよ」
「はは…そりゃ良かった」
「愉快ではないけど、遊びで手を出すよりは本気の方がよっぽどいい。
その想いが本物なら…ボクがとやかく言う理由はなくなる」
天と環は、1つしか年齢が違わないというのに。中身はこうも違う。
環なら、こうはいかないだろう。
自分の方がエリが好きだから、俺には諦めろと詰め寄る。しかし天は、そういう無茶を決して口にしない。
この男は、知っているのだ。
恋は、1人でするものだと。
「ま、全力で叩き潰してあげるけどね」
「お。ライバル宣言ですか。いやぁ嬉しいね。天下の九条様にライバルとして認知してもらえるなんて」
「エリに少しでも好意を抱く生き物は、全部ライバルだよ。男でも女でも。ミミズだってアメンボだってオケラだってね」
「オケラと来ましたか…」
俺達がこうして冷静さを取り戻した今も、ナギの部屋からは奇声が聞こえてくる。
それは、クール!だとかパーフェクト!だとか。アニメを観るだけで、あそこまでの歓声が上がるものだろうか?
上がるものなのだろう。ナギだから。
「キミに、協力して欲しいことがある」
「ライバル同士で共同戦線ってか?やだ、なんか少年漫画みたいでトキめいちゃう」
「……」
「悪かったって!だからそう睨むなよ、ちゃんと聞くから」
少しの軽口でも、天は睨みを利かせた。これ以上 ご機嫌を損ねても俺にメリットはない。
真剣に耳を傾けることにした。
「エリが Lioであったこと。業界や世間に、絶対知られたくない」
左手と右手を組んで、天は告げた。
そうか。天は、そっちの秘密も共有したというわけか。
「その秘密が露見した時、きっと彼女は この業界を去る。TRIGGERの…ボクらの前から、姿を消してしまう」
組んだ手に、ぎゅっと力を込めた。その悲痛な表情から、彼の本気が窺い知れた。