第50章 お慕い申し上げておりました
「雨、マシになるどころか強まってねぇ?しかも、風まで出て来てたような…」
「うん。まさか、ここまで酷くなるなんて…。ごめん天にぃ、オレが寮に来て欲しいなんて言ったから…これじゃ帰れないよね」
「陸が悪いわけじゃないでしょ。ほら、そんな顔しないで」
三月と陸と天は、ちらっと外の様子が見えたらしい。不安げに会話をしていた。
俺は、エリの腕を離す。そして服の袖で髪の水滴を拭ってやる。
「あぁもう。びしょ濡れじゃねぇの。考え無しで飛び出すからだぞ」
『す、すみませ』
髪やら頬やらをゴシゴシと擦られて、エリは片目を瞑って言った。まるで、雨の中拾われて来た猫が 体を拭かれているみたいに。
もしエリみたいな猫がいたら、なかなか懐いてくれないんだろうなぁ。とか考えてみる。
最初の1ヶ月くらいは、爪を立てられて フーっとか威嚇されて。でもそのくせ一度気を許してくれたら、途端にゴロゴロ喉を鳴らすのだろう。
そこまで妄想して、何を考えてるんだろう と我に帰った。
エリの輪郭を滑る水滴を、指の腹でなぞって嘲笑する。
「この寮には、タオルもないわけ?」
天が、エリの腕を引いて言った。必然的に、俺と彼女の距離は開く。
「あっ、オレとってくるよ!」
「陸、それならお客さん用の奴が」
走っていった陸を追う三月。
部屋には、俺とエリと天の3人が取り残された。
相変わらずこちらを睨み付ける天。その手には、まだエリの腕が握られたままだ。
そんな接触部分を視界に入れたくなくて。わざと大きく視線を斜め上にやって、言う。
「はぁ…そう睨むなって。べつに取って食やしねぇから」
「そんなの当たり前で」
「今日のところは。な」
ニヤっと天を見下げて言うと、彼は悔しそうに俺をまた睨み上げた。
そんな俺達2人の顔を、エリは不安そうな表情で交互に見つめていた。