第50章 お慕い申し上げておりました
クラッカーに明太子とチーズが乗ったもの。エリンギのバター醤油炒め。ごま油と塩で揉まれた胡瓜。
三月が作ったおつまみが並んだ。
「残り物で作ったから、なんかバラエティに富んでてごめんな」
『問題ないですよ。美味しそうです』
「んじゃ、ミツも合流した事で。改めまして…」
乾杯!
と、遠慮した声を揃えた。
「雨、ますます強くなって来たな。ほんとに止むのか?これ…」
「あー…タマとソウも心配だよな。帰ってこれんのかね。この状況で」
『危険でしょうね。おそらく雨で前が見えなくて、タクシーも動いてないのでは?』
私達は、窓の外に目をやった。
雨足はさっきとは比べ物にならない程に強くなっている。ガラスを叩く雨粒のせいで、外の景色が見えないほどだ。
悲しげな目で、三月が呟く。
「さっきも言ったけど 環の奴、あんたに会えるのすげー楽しみにしてたんだよ。
“ ソッコーで仕事終わらして、ダッシュで帰ってくんよ! ” って息巻いてた」
「ははっ!ミツ、それめっちゃ似てるわ!」
環のモノマネをする三月を見て、大和は腹を抱えた。
リアル過ぎるクオリティのモノマネを前にして、私は逆に胸が締め付けられた。きっと環は、今この瞬間にも 私に会えるのを楽しみにしているに違いない。
そっと携帯を開き、彼へのメッセージ画面に文字を打つ。
内容は、私が今 アイナナ寮にいること。豪雨の中 無茶をして帰って来ようとしないこと。周りの人の指示にきちんと従うこと。もし今日会えなくても、今度またゆっくり会おう。
そんなところだ。
雨はまだまだ、続く。