第49章 天にぃとラブラブだぁ
もはや暴徒と化したナギ。狭いセット内で 叫び、飛び、暴れる。
終了まで、あと30秒。この状況を綺麗にまとめる任を負った三月には同情しかない。
と、その時だ。暴れん坊のナギの足が、ラウンドテーブルに当たる。
そのテーブルの上には、とてつもなく大切な物が鎮座している。それは、天が獲得したばかりの トロフィー。そう。プリンス賞 最優秀賞と共に頂戴したトロフィーだ。
今日の動画配信用にと、特別に社長室から持ち出して来たもの。
ちなみに卓上には、ナギが獲った優秀賞の盾型トロフィーも一緒に飾ってあった。
ぐらりと、2つのトロフィーは大きくぐらつく。
あ。
その場にいた誰もが、その一文字を口にした。しかし突然の事態に、誰の体も動かない。
私の脳裏には、トロフィーが地面に叩きつけられる映像が流れる。そして、クリスタルが粉々に砕け散るのだ。
気付けば、地面を蹴っていた。
野球選手のランナーよろしく、私は見事なスライディングを決める。手中には、2つの重みが乗っかった。
『あぁ、良かった。セー……フ』
ぱっと顔を上げると、こちらを見下ろす天と目が合った。その瞳は、大きく大きく見開かれている。
あ、ヤバイ。と思った時には、私は余裕でカメラの前だった。
「ナ、ナイス!さっすがTRIGGERのプロデューサー!超カッコイイ、ダイレクトキャッチ!
なんならもう、このまま あんたが番組締めちゃえ!
はい!カメラに向かって一言!」
カメラの横の、時計に一瞬だけ視線をやる。残りはあと10秒。迷っている時間はない。
このまま私が黙っていれば、放送事故だ。
ん?ウェブ番組でも、放送事故になるのか?ええい!今そんな事はどうでもいい!
トロフィーを胸の高さまで上げる。肺に空気を入れる。緊張で固まりかけた口角を、上げられるだけ上げる。
『ご視聴、ありがとうございました。
どうぞこれからも、IDOLiSH7とTRIGGERを、よろしくお願い致しますね。可憐で愛らしい、お姫様達』