第48章 《閑話》とあるアイドルの誕生日
「……ごめん。急に、押し倒してしまって」
『………』
俺は座りを直して、彼を起こそうと手を伸ばした。しかし、春人はその手を取らなかった。砂浜に寝転んだままで、口を開く。
『貴方は、引き金をひかなかった』
「……」
『龍の自制心は、とても強い。凄いですね。やっぱり私なんかとは全然違う。
私は、駄目ですね。いけないと分かっていても、目の前でキラキラ輝く美しい物を見ると ついこの手を伸ばしてしまう。触れてしまいたくなる。それは絶対に、TRIGGERの為にならないと気付いているのに』
何も言えない俺に、春人は上を向いたままで続ける。
『ありがとう。龍』
「…それは、何に対しての、ありがとう?」
『冷静な判断を下してくれて、ありがとうございます』
春人は、嬉しそうに。しかしどこか悲しげに。俺に対して そう告げた。
君は、俺が立派だとか。心が広いだとか、自制心が強いだとか。まるで冷静な大人であるかのように言うけれど。
それは全く見当違いで。
だって本当に、ギリギリの決断だったんだ。
その証拠に、俺の中の獣は…その引き金に未だ指を掛けている。
いつだってその引き金をひいてしまえるんだぞ、と 言わんばかりに。