第48章 《閑話》とあるアイドルの誕生日
『とにかく…私の杞憂だったようで安心しました。そうとは知らず、貴方を甘やかそうなどと 軽々しくなでなでしたりして。どうも すみませんでしたね』
「あのさ…」
一度 言葉を切ると、彼は後ろへ体を傾けた姿勢のまま こちらを向いた。
さっきは、スラスラと言葉が出たというのに。今度は思うように口が動かない。
この気持ちを、春人に伝えるのが恥ずかしいのかもしれない。
「上手く、言えないんだけど。
俺、初めてなんだ。こんな気持ち」
『??』
「 “ どーんと俺に甘えていいよ! ” って、いつも思ってるんだけどさ…
その…。誰かに “ 甘やかされたい ” って、思ったのは 初めてで」
どこに視線を持っていっていいのか分からない。今度は俺が、春人から顔を晒したい気持ちになる。
しかし それをぐっと堪えて、真正面から向き合う。
「迷惑じゃなければ これからも…俺を甘やかしてくれる、唯一の人で いてくれないか?」
ごくごく近い距離から、大きな瞳が揺れるのを見た。その綺麗な瞳の中に、吸い込まれてしまいそう。
『…信じられない』
「え、ひ 引いちゃった?」
『お願い事をする時まで、そんなに格好良いなんて。本当に、狡い…
いいですよ?いつも皆んなの頼れる龍お兄ちゃんを、私が甘やかしてあげましょう』
珍しく歯を見せて笑った春人を見て、心底ほっとした。
ほっとしてから、俺は言葉を付け足す。
「春人くんも、俺には甘えてくれていいからね。ほら、俺だけ甘やかしてもらうんじゃ 悪いから」
本当は、俺が君を甘やかしてあげたいだけなんだ。俺だって、君を甘やかしてあげられる特別な人になりたい。
そんな胸中を知ってか知らずか。春人は、少し経ってから 遠慮がちに頷いた。